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あらゆる事柄に関するレビューログ。 #kaibaricot
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最初に。
毎回、誤字脱字、変な文章が多いと思いますが、
読んで頂きありがとうございます。
おそらくは同じ記事を一度読まれたら、
もう一度読まれるということはないでしょうが、
いつも反省して、誤字脱字は何度も直していますので、
もし気が向いたら読み直してみて下さい。



1968年、芥川賞受賞作。
私は、この講談社学術文庫で読んだのではなく、
講談社から出ている、前の版の文庫です。
この小説を読んだのは、三回目ですが、三回読んで、
ようやく完全に頭に入りました。

私の持つ文庫版、フランス文学者の平岡篤頼氏の解説によれば、
この芥川賞は激賞され、審査員の口々から賞賛の言葉が溢れたという。
もちろん、いくつかの留保はあった。
永井龍男や三島由紀夫である。
三島は、その多くが会話文で成り立つこの物語を、
「作者が得意になっているのが透けて見え鼻につく」
というような意見を述べたとか。
確かにその通りなのです。
しかし、それほどまでに会話文がうまくいっているのも事実。

この皮肉と皮肉、嫌味と嫌味、憎しみと憎しみ、
虚栄と虚栄の、乾いた応酬はものすごいのです。
しかも、そのいずれもが機知と諧謔に裏打ちされている。
とてもアメリカ的な会話なんですね。
さすがにアメリカで主婦をやっていただけはある。

私は小説が何かしらの映像と結びつくと忘れなくなる傾向にあるのですが、
今回読んでみて、カサヴェテスの『FACES』と結びつきました。
あの主婦達、夫達の、あまりに醜悪な会話とやり取りを思い出した。
アメリカ社会のブルジョワジーを、淡々と、確実に描き切った、
あの傑作と、この話は実によく似ている。

しかし、後半は少し感傷的になる。
それというのも、主人公、
由梨の心象を追うことになるからに他ならない。
私はこの感傷は悪くないと思う。
前半の不毛過ぎる会話といい対比になっているからです。
しかも、感傷すら由梨の中で機能しなくなる。

とにかく、救いはない倦怠、諦念。
別に社会的には貧困に喘ぐとか、物凄く劣悪な状況ではない。
時として、貧困が家族の仲の良さを導くとするなら、
満ち足りた生活が人間関係の破綻を招きもする。


この空虚過ぎる物語、ぜひ読んでみてください。

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今回より、いつものレビューに戻します。


今年から2〜3年は私の中でSF年と決めているのですが、
60年代後半から、70年代にかけて登場した、
SF界のニュー・ウェーブの旗手ともいえる、ディレイニーの『ノヴァ』について。
本書はディレイニーの最高傑作、SF界の金字塔とも言われている作品です。

以前、ディレイニーの傑作『バベル17』についてちらっと、
このレビューログで触れたことはあります。
1966年にネビュラ賞を受賞した本作は、
謎の宇宙言語『バベル17』に挑むという、
これまでと全く異なる形態のSFを展開し、
私は少なからず影響を受けました。
そして、『ノヴァ』を読んでみて、
やはり彼の言語そのものに対する知識の深さ、
思い入れを強く感じました。

ディレイニーは必ずしも、
とっつきやすいSF小説家ではありません。
まず物理的問題がある。
彼は実は単なるSF小説家ではなく、
かなり雑多な種類の文章、純文学、ミステリー、
評論などを書いている重要な作家なのですが、
そもそも翻訳されていないものが非常に多い。
とりわけ重要な近未来小説『Dhalgren』(1975)などは、
大長編のせいもあってか、いつまでたっても邦訳が出てこない。

また、彼の仕事に対する学術論文の数も少なくありません。
つまり重要な作家として捉えられているということなのですが、
それゆえに、難解なものも結構ある。
『ノヴァ』も読解不可能という評価があったようですが、
なるほど、確かに難解で、私もかなり苦戦しました。

わけがわからないんですね。
特に、わけをわからなくさせているのが、彼の文体です。
プレアデス方言なる、独特の倒置法を縦横無尽に使っているため、
読解が難しく、理解に時間を要します。

つまり、

Where did you find this ? という英語の疑問文を、
Where did you this find ? としているわけ。

こういった英語の通常のグラマーを無視した、動詞と目的語の倒置や、
ほかにもいくつか厄介な倒置があるようで、
翻訳された伊藤典夫さんもかなり苦労された様子。

だって、この疑問文には日本人としては非常に厄介な問題に直面します。
上記の二つの文を、そのまま語の順番通りに訳すと、

どこであなたは見つけたのこれを?
どこであなたはこれを見つけたの?

となり、つまり、英語で不自然であるはずの倒置が、
日本語になると自然になってしまう。
英語はSVOの文型であるのに、日本語はSOVだから、
この倒置は倒置にならないわけです。

そこで、伊藤さんは、
「どこかな見つけたと、これ?」と訳している。
(なんか北九州っぽい方言でしょう?)

実はこんなのはまだ易しい例で、かなり複雑な倒置が原文では起こっており、
特に否定文には相当手を焼いた模様。
私はいくつかの例を本書の末尾に付せられた「小論」で知ったのみで、
原文にはあたっていません。
「小論」と書いた理由は、「解説」にしては長く、
且つ、しっかりと本作が「『ノヴァ』、秩序、神話」
という題名の下、論じられているからです。

以上のような文体のため、日本語としても、
なかなかに読みづらく、いったい何の話をしているのか、
よくわからなくなる。

その上、作者による聖杯伝説とタロットカードに関する、
豊富で深遠な蘊蓄が重なり、難解さに磨きがかかる。

かてて加えて、出てくる未来の世界観や物も、
ディレイニー流の詩的な物が多く、
私の想像力では追いつけない部分もある。

その最たる物が「感覚シリンクス」とかいう、楽器であり武器。
これは本作の中でも一番大切な物なんですが、こいつが一体、
どれほど甘美な三次元を奏でているのか、
わかるようなわからないような。

しかし世界観は、『バベル17』を読んだ身としては、
なんとなくわかる。
興味深いので少し話すと、
アシュトン・クラークなる哲学者が25世紀あたりに登場して、
彼が、パソコンの画面を操り仕事をすることと、
衣食住が乖離しすぎているという、まあ、
ある意味古典的な論を展開するわけです。
農耕や狩猟は、働く=衣食住=生きる、であったが、
パソコンの登場、支配によって、
単にお金のために働くことになってしまい、
労働の意義が希薄になってしまったと。
それだけなら誰でも言ってることの気がするんですが、
アシュトン・クラーク氏のすごいところは、
じゃあ、働く=実のあること、にすればいいと、
なんかソケットとかいうのを、共同開発するんですね。

これにより、みんな、そのソケットを機械に繋ぎ、
機械と一体化し、機械の感覚を取り込み、
働いたという達成感を与えるのに成功。
右足で工場全体のベルトコンベアーとなり、
目で工場全体を見張るというようなもの、らしい。

これはアニメで言えば、だぶん、エヴァンゲリオンの何号機とかが、
乗っているパイロットの思うように動き、痛みなどを感じる、
みたいな考え方でしょうか。
(私はエヴァンゲリオンについてよく知らないので、
間違っていたらすみません・・・)

『ノヴァ』の世界は、つまりはこのソケット社会なわけです。


・・・・とにかく一筋縄ではいかない小説だし、長いので、
そんなにおすすめできるものではないのですが、

スペース・オペラの頂点を極めた、超大作であることには間違いなし。
その独特でこだわりぬいた世界観と、各世界の関連には、
ディレイニーの想像力に脱帽するしかありません。
とてもパワフルなSFです。とても。

ディレイニーは本当にエネルギッシュな作家だと思う。

クラークやアシモフ、ブラッドベリとかディックとは全く異なるタイプです。
想像力がついていかない部分も少なくないのですが、
執念というかそういう勢いもあり、なかなか魅せられます。

SFでは必読書ですので、ぜひ。


ハヤカワ文庫。


この本について、いかなることを語ればよいでしょうか。

実は、伊藤計劃氏の作品について、
まず私自身にとって重要な論考を、あるところへ寄稿する予定なので、
ここで詳細を語るわけにはいきませんが、
伊藤計劃氏は、ゼロ年代最高の小説家と確信しました。
それだけに、2009年、34歳という若さでご逝去されてしまったことは、
本当に残念でなりません。
これほど素晴らしい小説家が存在していたとは。


以下、お好きな方がいらしたら、誠に申し訳ありませんが、
このレビューログは、「尊大でかつ傲慢であること」を設定としていますので、
少し酷く書きます。

先日の芥川賞を受賞された、お二方の小説と比べ、
なんと計劃氏の小説のほうが優れていることでしょう。

朝吹さんのは、代々と続く良きご家庭にて育まれた、
単なる処女の幻想に過ぎない。

西村さんのは、太宰とか田中英光とかの系譜を受け継いでいます。
(ご自身は相当、田中英光に詳しいとか)
要するに、日本センチメンタリスム同盟ですね。
いまだにこんなセンチメンタリスムをよしとする風潮が残っているとは、
と愕然としました。

そもそも、書くことの大半が、自分の経験に基づくなんて、
ほんとか嘘か知りませんが、そういうことを馬鹿みたいに言って、
すでに感傷的過ぎる。
内容もですが。

太宰は確かにいい。田中英光も悪くない。
でも、つまりは、もうこの道でやることはない、ということです。
太宰は、センチメンタリスムの頂点を文学で極めた。
だから、三島はそれが大嫌いだった。
アラーキーは凄い。
アラーキーは写真でセンチメンタリスムを極めた。
だから、写真でもこの道は、もうやる必要がない。

いつまでもセンチメンタリスムを追っかけると、
日本の文学は袋小路にはまり込む。

もっとひどいことを書きたいのですが、ここらへんで止めときます。


・・・・


それに対して、

伊藤計劃氏は全くセンチメンタルではない。
それどころか小説家として、
強靱な世界を創造する力をお持ちです。
あくまで論理的なリアリストです。


伊藤計劃氏とE氏に関する、論考を草している段階なので、
あまり詳しいことを言えずに、歯がゆいのですが、

『ハーモニー』絶対読むべきです。
SFというジャンルにカテゴライズされていますが、
いわゆるSFとは違う。

ユートピア小説の臨界点まで達した傑作。
日本人にこのような話が書けるとは……

第30回日本SF大賞受賞
「ベストSF2009」第1位
第40回星雲賞日本長編部門受賞

伊藤計劃さん、なんで死んじゃったんだろ……






異端の俳人、西川徹郎、10代の頃の処女句集。
吉本隆明をして、天才と言わせしめた、破調の銀河系。

神保町の、沖積舎さんは、いつも貴重な図書を小数部で発行しくれます。
たとえば、竹中郁詩集成。この重要な図書は限定350部ですが、
Nicot氏の蔵書にありますので、幸運なことに我が家に。
北川冬彦全詩集も沖積舎さんで、手に入れております。


さて、西川徹郎氏の『無灯艦隊』はまず、タイトルで、
物凄く引き付けられる。
とにかく、かっこいい。
艦隊とくると、どうしても不世出の詩人、
安西冬衛『軍艦茉莉』が頭をよぎります。

晦冥に包まれた海上を、音もなく迫り来る、艦隊ーー

若書きの観は多少否めないですが、
禁欲的で、鋭い句ばかり。ずば抜けています。

以下、ランダムに引用してみます。
(多作の俳人なので、10句ほど)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

世紀末的少年のふぐりは鼠です
海女の乳房に廃船の骨一本刺さり
冬の皿狐の顔を映しけり
屍姦の浜に黒い千鳥が湧き上がり
娼婦の項青い砂漠となっている
月食の街おんなはみんな生臭く
鬼火明かり全裸の祖母が走るかな
卵が降ってきそうな真昼峠越す
全身包帯の馬がくる分娩室に
椿咥えてしいんしいんと旅をしたり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一句一句、立ち止まってしまい、なかなか読み終わらない句集です。




時雨沢恵一著『キノの旅』On 電撃文庫。

今、非常に勢いのある、ラノベ界。
その中心的役割を担っているのが、アスキーの電撃文庫です。

『キノの旅』は、電撃文庫の中でも、歴史は古く、
現在も続いている古典的でかつ、人気のある作品です。
例えば、『デュラララ!』の中で、遊馬崎などが、時折、
「キノの旅の新刊でないかな〜」とか話しています。
最新刊は第14巻です。
わりと最近出ました。

どういう形式の物語かと言うと、
キノという少女が、エルメスというモトラド(バイク)とともに旅をする。
エルメスはバイクだけど、話すことができます。
そして、旅するのは架空の国々。
したがって、各章、「〜の国」というのが大半。

言ってみれば、『銀河鉄道999』に似た形式です。
999は、様々な惑星や宇宙人に会い、
そこから色々な教訓を得る。
『キノの旅』も同じです。
様々な国へ行き、キノの醒めた目で、各国の人達を見つめる。
すると見えてくる、寓意。

さて、ここからは私見です。
「電撃文庫」研究から読み始めましたが、
正直言ってあまり面白くないんですね。

なんていうか、999の場合、あくまでもゴール地点があったのだけど、
なんか教訓とか寓意を見せたいがために、後から国をつくったみたいな設定。
だから、そのような国がある必然性が、よくわからない。
その国の存在意義を全く説明していない。

作者の言いたいことを言うために作られた国々のような感じが、
はっきりと透けて見えて、キノがとても嫌味に思える。
そのうえ、エルメスが、アニメの時もそうでしたが、
とても「うざい」キャラなんですね、エルメス。
なんか、鬱陶しい。邪魔している。

それに、私にはキノの哲学のようなものが、とてもしょうもないものに思える。
つまり、キャラクターに魅力を感じられないのです。

よくもまあ、こんなばかげた話を、14巻も続けたものだ、というのが、
正直なところ。

もっと、色々な国がある必然性を説明して欲しいし、
人間という存在は、こんな単純なものではない。

キノがやけに傲慢で偉そうに思える。
それに、会話文が、私にはとても下手に思えます。

と、ひどいことばかり書いてきましたが、、
よろしければ、アニメなどから入ってみて下さい。

また、電撃文庫について書きます。


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海馬浬弧
性別:
女性
自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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