あらゆる事柄に関するレビューログ。
#kaibaricot
プロレタリア作家、葉山嘉樹の、忘れられた傑作。
『セメント樽の中の手紙』など、彼には佳作が多い。
プロレタリア作家は小林多喜二ばかりが取り沙汰されますが、
結構たくさんいるのです。
徳永直『太陽のない街』は小竹向原ー千川が舞台。
黒島伝治『渦巻ける烏の群』
これらはプロレタリア文学の傑作です。
さて、『淫売婦』は短いながらも、
グロテスクで絶望的な仮借無い物語。
ある若い男が、横浜で出会う、病気で死にかかった淫売婦。
淫売婦の周りには三人の男。
初め、若い男は、三人の男が女をボロボロにしてまで、
食い物にしていると思うのですが、
実はそれどころか、女は三人の男に感謝しているし、
四人が生きるために、皆が皆、助け合って生きている。
女の薬を買うためには、稼がねばならず、
稼ぐためには、女の肉体を酷使しないといけないという、
ただ墜ちていくだけの悪循環。
ここには典型的なプロレタリア系のイデオロギーである、
労働者は労働によりさらに貧乏になるという構図があります。
資本家は労働者を徹底的に搾取し、
労働者はいつまでたっても、働けど働けど楽にはならない、
どうしようもない生活が横たわっている。
彼女はもはや起きることも能わず、
結核でなおかつ子宮癌に喘ぎ、死にかかっている。
腐った畳の上で、死体よりもなお死体的な腐臭を放ちながら、
骨と皮だけになってそれでもまだ生きている。
髪の毛は自分の吐瀉物で汚れ、固まり。
生きていれば何かあるかもしれないという「空頼み」だけで、
生きているらしい。
救いは全くない。
何一つ希望は転がっていない。
若い男はそれでも、彼女に少し欲情するのです。
肉体文学の巨匠、田村泰次郎の『蝗』的なものを思い出しました。
救いのない暗黒な夜に、
自分よりももっとひどい状況を知って下さい。
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君は『黒死館殺人事件』を読んだか?
私は苦労して読んだ。
最近、ようやく読み終えた。
1934年に江戸川乱歩が創刊した雑誌『新青年』で連載された、
日本探偵小説史上の三大奇書の一つ。
あとは『虚無への供物』と『ドグラ・マグラ』ね。
どれも長い。
小栗はその晦渋を極めた文体から、
当時は幸田露伴などのいわゆる純文学作家からも一目置かれていた作家である。
今では忘れられた作家の一人。
西の横綱が夢野久作なら、東の横綱は間違い無く小栗虫太郎だろう。
彼は、探偵小説のみならず、『白蟻』という、これまた難解な文体の、
傑作中編がある。
正直、夢野のほうがよっぽど読みやすい話が多い。
あとはこの頃で言えば久生十蘭にも傑作がある。
江戸川乱歩の周りの雑誌には結構面白くて、
忘れられた作家がいる。
猟奇的な作品を書いた作家も多い。
お勧めは大坪砂男『天狗』『零人』
小栗虫太郎はとにかく、難しい。
そして、極度の衒学趣味。
しかしその衒学の典拠たるや、なかには疑わしいものも多数あり。
にもかかわらず、その「似非」知識を、本当の知識のように振る舞わせる、
豪華絢爛な虚無。空中楼閣。
おそらく、1ページあたりに30ばかりの註が必要なのではないかと思われるような、
固有名詞やエピソードの列挙。
とてもとてもついていけない。
その結果、話の全容はまったく見えてこず、
一体なにがどうなったのか、全然わからない。
へんてこな病理学やら占星術やら神秘哲学やら宗教学、心理学、暗号学を駆使し、
わけのわからない殺人事件を解き明かす。
すべて、稀代の麒麟児、法水麟太郎が解き明かす。
それにしても、読んでいてさっぱりわからない。
字面を追うのがやっとである。
難しすぎるし、博覧強記の彼がたびたび引用する文献は、
全くなじみがないばかりでなく、存在しているのかすら怪しい。
法水恐るべし。
彼をもってすれば、シャーロックホームズだろうが、
ポワロだろうが、ルパンだろうが、明智だろうが、みんなふっとぶ。
とにかく、途中から犯罪が一体なんなのか、それすらわからなくなる、
ディレッタンティスムの脱線ぶり。
理解できない。
私はチェスタトンが特に好きで、
ブラウン神父シリーズは愛読した。
あの、諧謔と皮肉に溢れた、敵の精神へ迫っていくブラウン神父の謎解きは、
いかにもおしゃれでした。
チェスタトンにせよ、ドイルにせよ、皆戦前の人である。
探偵小説は実は、戦前に黄金時代を迎え、今はもう見る影なし。
東野とか残りカスにもならない。
『黒死館殺人事件』、眠くなること間違いなし。
もし法水が気に入れば、『聖アレキセイ寺院の惨劇』もぜひ。
よくもまあ、こんな小説を書こうと思い、
なおかつ書けたもんだと、開いた口がふさがらない。
天才の仕事です。
小栗のファンは結構昔は多かったけれど今は聞かないね。
松山俊太郎、澁澤龍彦、三島あたりは小栗を尊敬して止まなかったらしい。
私にはコロンボくらいがちょうどいいです。
わたしは、池部良さんの大ファンです。
長生きの池部良さんの大ファンです。
きっかけは、健さん目当てで見た、昭和残侠伝シリーズ。
風間を演じる、池部良さんのかっこよさ。
もちろん、彼の良さは、もっと爽やかな役柄にもあります。
この本の解説は、偶然にも、やはりわたしの好きな、
如月小春さんが担当しています。
小春さんが書いていらっしゃるように、例えば、
小津の『早春』で主役をやった、池部良さんは素晴らしい。
小津の作品としても、原節子を擁した、紀子系の作品群と違って、
そういう意味でも面白いの。
さて、本作は、池部良さんが実際に関わった人々、
あるいは関わっていないけど思い入れのある人達に関する、
エッセー集という形式。
やっぱり、
健さんや鶴田浩二さん、高峰秀子さん周辺について書かれているところが、
個人的には興味深く、東郷平八郎とか正直、どうでもよかった。
ヘンリー・フォンダに対する意見は私は大反対ですし。
だって、彼のせいで、子供達はずいぶん大変だったらしいし。
まあ、それは置いておいて。
やっぱり、池部さんは立教の英文科で、
江戸っ子で、親父が有名な絵描きなんだなあ、と思ったり。
でも、池部さんのお父さん、私、結構ひどいと思いました。
乗り物に弱くて、げろってルお母さんをしかるなんて、
「男の風上にもおけない」ね。
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海馬浬弧
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言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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