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松浦寿夫氏のバルト没後30年によせた小論考「いま少しの空気を」について。

短くて面白い論考です。
松浦氏だけに、バルトのあまり知られていない画描きの側面に焦点を当て、
彼のテクスト論と通底している部分があると鮮やかに解き明かしています。

私はバルトの絵を残念ながら見たことないのですが、
なんとなくこれを読んで想像出来る気がしましたし、
この論考には実はかなり重要な問題が含まれていると思うのです。

さて、松浦さんがまず絵画の前提として置くことは、
彼自身、自明すぎることと言っておられるように、
絵画とは加算型の芸術であるということ。
真っ白なキャンバスに、絵の具をどうしても足していかざるを得ない。
本質的に加算型の芸術であるわけです。

でもそれって文学でも同じですよね。
真っ白な余白を、文字で埋めていかないといけない。

そこで一つの疑問が生じます。
絵画において、絵を描きながらなおかつ、
画面を稀薄化することは果たして可能なのか?

それは極限的には、描く(書く)ことの放棄にたどりついてしまう。
加算的な作業をしながら、なおかつその作業に減算的な効果を与えなければ、
画面を稀薄化することができない。

バルトは理想とするものが、彼のテクスト論において知られているように、
「空」なので。
「空気」なんですね。
だから松浦さんも「いま少しの空気を」としているわけです。
空気を加算的な作業で書くのは至難の業です。
だからバルトは稀薄化を目指すわけですね。

文学において彼は、まず形容詞に辟易としました。
形容詞って、ほんと付加的というか、
ヘタな文章書きに多いですが、一つの名詞にわけのわからない形容詞の群れをつけ、
名詞からどんどん離れて陶酔するっていうか、書き手の自己満足っていうか、
ある意味、一時期の若書きの頃の三島由紀夫的なものを感じさせます。
でも三島にはもの凄い殺し文句みたいな隠喩も多い。
バルトはそういうわけで俳句を尊んだわけなんです。

話を絵画にもどすと、まあそういう「空気の空間」(ボードレール)を現出させたのが、マネ以降ということになり、マネから現代絵画が始まるとは、
いまはもう当たり前の事実のようになっていて、昨日のマルローさんが、
Musée imaginaireの独断と偏見の中で、
マネの絵画には何もないというようなことを語っているわけです。

それはさておき、
松浦さんはバルトの絵がサイ・トゥオンブリの絵に似ていると、
言っています。
しかし両者の違いは、トゥオンブリのそれは稀薄化に成功しているけれども、
バルトはただ単に無秩序で質が稀薄化されず、失敗していると。

私なりに解釈すれば、トゥオンブリは無秩序なりの秩序があるから静かだけど、
バルトは単に無秩序で「うるさい」というわけ。

これは、ピカソの絵と子供の落書きを比べるような問題で、
一体何が芸術なのか、という大きな問題にも発展します。
だから私は、大きな問題がこの論考には含まれていると言ったのでした。

だって、この論考には、隠された前提として、
「減算的なもの=芸術、いいもの」みたいな前提があるよ。
要はね、みんな稀薄なものがいいっていうんだ。
静かなものが。
つまりはおしゃれなものが。

私に言わせると、本質的に加算である絵を描くという作業を進めていった、
中心化していった作品にもいいものはよっぽどあると思うのですが。。。
バルトとか、ちょっと上品すぎるね。
『零度のエクリチュール』も確かに、詩のところでそういうこと言ってたよ。

稀薄化とか、その名の通り、エネルギーがない。
トゥオンブリのわけのわからない絵より、
三島の溢れんばかりの加算も、悪くない。と思う私でした。

俳句なんてじじくさい。


サイ・トゥオンブリ『レダと白鳥』


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海馬浬弧
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言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
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