あらゆる事柄に関するレビューログ。
#kaibaricot
1972年刊。
講談社文庫で手に入ります。
女性の情念を描くのが上手いと言われている立原正秋。
今では、ほとんど読まれることのない作家の一人です。
なぜか?
それは第一に、立原正秋という作家の位置づけが難しいからなのです。
例えば、川端や大江健三郎、三島、安部公房なんかと比べると、
いわゆる「純文学」臭が少ないように思えるし、
立原と仲の良かった小川国夫と比べても、そんな感じがする。
どこか、立原には、谷崎文学を大衆的にした雰囲気があります。
しかし、渡辺淳一のような馬鹿丸出しの大衆小説とは異なり、
言ってみれば、ある「時代」の中、とりわけ彼が生きていた時代においてしか、
認められないような微妙な良さがあるのです。
似たような小説家に、丹羽文雄を思い出します。
高橋治を思い出します。
この三人に共通すること。
それはいずれも国文学出身者であるということです。
そして、これこそが、今の時代において、
最も読まれ難くさせている一因を成していると思えます。
彼らの文学には、独特の国文学風の滅びの美学があり、
本居宣長的に言うと、『源氏物語玉の小櫛』的な
「もののあはれ」文学なんですね。
それが今から見ると、たぶん当時もそうだったんでしょうが、
少し嫌味に見えてしまう。
三島にも有ると言えば有るんですが、彼は法学部ゆえの、
論理性を持ち合わせている。
谷崎にも有りますが(彼は国文)、彼にはモダニズムがある。
「もののあはれ」とか国文的な女の情念って、
一歩間違えると二時間ドラマになってしまう。
だから、顧みられることの少ない作家となってしまったんでしょうね。
さて、前置きが長くなりましたが、『春のいそぎ』について。
女の情念満開です。
ただし、薄めに。
とはいえ、女・女・男の三姉妹、全員が不倫にいそしんでしまう。
滅亡の道を辿りかけ、そこから抜けだそうとする物語。
舞台は立原文学お得意の鎌倉。
面白いですよ、はっきり言って。
なるほど、少し嫌味な感じはありますが、気になりません。
ある意味すごく、ロマンチストな物語です。
しかし、女姉妹二人が不倫をしてしまう、その道筋は、
(その理由とは書きません。なぜなら、はっきりと一つの理由に還元できないからです。しかもなお、確固たる道筋と言っていいでしょう)
とてももの悲しい。
彼女たちの独白は寂寞としている。
もの悲しいし、真に迫っている。
単にセンチメンタルなだけではない。
本当にもの悲しい小説です。
堪えました。
秋の夜長にどうでしょう。
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海馬浬弧
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女性
自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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