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クシシュトフ・キシェロフスキ監督『デカローグIV』

これで残すところ、デカローグはあと一本のみ。
十戒に基づいた全十話にわたる中編映画。
テレビ用に制作された映画のため、すべて60分程度と短い。
そして本国ポーランドでは、平均視聴率50%をたたきだし、
最終回は64%にも達したという驚異的な作品。
このような映画をテレビでやっているとは、相当質が高いと思います。

私はポーランド学の嚆矢として知られていますが、
ポーランドを学ぶためには、アンジェイ・ワイダ監督作品を見、
その後クシシュトフ・キシェロフスキ監督作品を見ることをおすすめします。

ポーランドは非常に苦しい歴史を歩んだ国です。
そのため、ポーランド映画はいつも異様に暗い。
ワイダがお手の物とした、ドライ・タッチは救いがない。
イエイジ・カワレロヴィッチの傑作『尼僧ヨアンナ』の救いなさはこの上ない。
それもこれも、ポーランドは、実際に絶望的な道のりを歩んだからなのです。

キシェロフスキ監督は、他にも、
『トリコロール』三部作、『ふたりのベロニカ』等で知られておりますが、
私は断然『デカローグ』シリーズを推したい。
どの話も素晴らしいからです。
『トリコロール』に至っては、「白の愛」はまあまあですが、
「青の愛」はよくわからない。
『ふたりのベロニカ』は好きな人も多い映画ですが、
映像の美しさ以外にとりたてて見るべき点なし。

Par contre、デカローグは抜群です。

さて、今回はその中でも、
「ある告白に関する物語」
「ある過去に関する物語」です。

この二話は、デカローグの中でもより内的な話であり、ポーランド的な話です。

特に「ある過去に関する物語」は、ポーランド的です。
例によって、ナチス占領下のポーランドにおいて、
見捨てられたユダヤ人少女と、見捨てたポーランド人の女性の話。
いまや月日は過ぎ、ユダヤ人少女はアメリカで立派に独り立ちし、
ポーランド人の女性は、倫理学の教授で権威なのです。
そんな、二人の再会。

ある状況下では、本来、救う側の人も、
容赦なく見捨てる側になってしまうし、
善人と周りが認めているような人物でさえ、
常に善人でいることがいかに難しいか。
逆に救われる側の人が、今度はいつのまにか救う側になっている。
どうして世の中には救う側と救われる側があるのか。

ポーランドの苦い歴史は、
人々にヒーローであることを拒ませたし、
逆に悪人であることをも拒ませた。
そこには、善人でなおかつ悪人である、要するに人間しかいない。
あらわになる人間性。

だから、ある人物は、「私を救ってくれてありがとう」というお礼さえ受け取らないし受け取れない。
だって、ある時その人は誰かを救ったかもしれないけれど、
また別のとき、その人は誰かを見殺しにしたのを知っているし、
誰かを救うということは、誰かを見殺しにすることでもあるからです。

ポーランド人には、自分が加害者であるという意識が非常に強い。

それこそがポーランドの魅力なのです。

登場人物の名前がいいですね。
エルジュビエタ・ローランという。
いかにもユダヤ人っぽくていい。

しかしエルジュビエタってどういう意味なんでしょう?
きっとなんか意味あるよね。

すばらしい映画です。
あのキューブリックが「ここ20年で1本だけ好きな映画を選ぶとしたら、
間違い無く『デカローグ』」とまで言わせしめた、見るべき映画です。

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海馬浬弧
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自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
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独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
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