あらゆる事柄に関するレビューログ。
#kaibaricot
高橋治(1929ー)の『風の盆恋歌』
「風の盆」の説明をしないといけないでしょうか。
私は、祖母から教わりました。
祖母の家に行った折、勧められた本です。
この本は、解説で加藤登紀子さんが書かれているように、
「風の盆」を描きたくて書いたような小説。
この本を読むと、絶対に「風の盆」に行きたくなること間違い無し。
越中おわらの風の盆。
日本の祭りは、基本的には陽気で活気に溢れていてうるさいものです。
それらの祭りを「動」とするなら、「風の盆」はまさに「静」
静かで、艶めかしく、美しい踊り。
毎年、9月1日から3日までの3日間、夜通し踊り続ける、「風の盆」
私は残念ながらまだ見たことがありません。
さて、高橋治さんの『風の盆恋歌』というのは、
カテゴライズしてみれば、不倫小説です。
私はなんとなく祖母の想いを感じ取りました。
彼女ははやくに結婚し、私の父を含む子供を3人もうけましたが、
祖父が全く働かず、それどころか作るのは借金ばかりで離婚。
女手一つで3人の子を育てるために、働きずくめ。
いってみれば、
佐藤愛子さんの、直木賞小説『戦いすんで日が暮れて』の世界。
そんな祖母だから、こういう不倫に憧れを抱いたのはわかるきがするのです。
少なくとも、渡辺淳一的なバカで間抜けな不倫ものより、大分いいです。
私は最後、不覚にも涙しかけました。
最後の1ページで、ね。
そういえば、祖母に勧められたもう1冊、
立原正秋『春のいそぎ』も不倫小説でした。
・・・
なんていうか、『風の盆恋歌』は、
日本の数多い小説同様、とてもセンチメンタルです。
それに都合のいい幻想です。
いまはもう別々の家庭を持つ2人が、
20年前の想いを、いわば暗渠のように抱えている。
その2人が、パリ、金沢、白峰で会う。
そして1年のうち、たった3日の風の盆の期間だけ、一つの家で落ち合う。
その美学。非常に甘い設定。
そして、その3年目に起こること。
物語は5章構成。
序の章、風の章、歌の章、舞の章、盆の章。
これら章の名前に、すべて何が起こるか表れています。
ちなみに、作者である高橋治さんは東大の国文科を出ているため、
その教養が如実に、至るところへ出ている。
特に歌。
歌の章では、書簡集になる。
お互いの手紙のやりとりに、必ず和歌が添えられる。
ゆめにみし人のおとろへ芙蓉咲く
とかね。
この句は久保田万太郎だったと思うけど、
非常にいい句ですね。
そう。
この物語で、芙蓉、特に酔芙蓉は非常に重要な役割を果たしております。
不倫小説というのは、どうしてもある種の諄さというか、
他人が酔っているのを見ると自分の酔いが醒めるような、
そういう効果が得てしてついて回るものです。
不倫しあっている2人ばかりが盛り上がって、
読者はおいていかれるような感覚があるものです。
そういう感覚はやはり少々あり。
しかし、そこまで、ではありません。
例えば『失楽園』のような、タイトルの時点で暴走している感じではないし。
私はオススメします、『風の盆恋歌』
とても面白い小説です。
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言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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