あらゆる事柄に関するレビューログ。
#kaibaricot
書家であり、文字に関する多数の貴重な著作を上梓されている、
石川九楊氏。
『文字の現在、書の現在』では、
いまでは、当たり前となっている「明朝体」とはいかなる書体(フォント)
であるのか、「ゴシック体」とはいかなる書体であるのか、
さらには「丸字」「肉筆」、「書く」からキーボードを「打つ」、
など文字にまつわる様々な事象を考察した、大変面白い論考です。
現代のようにPCや携帯が当たり前となっていない80年代後半に、
すでにこのような考察をされていたというのは、
慧眼としか言いようがありません。
非常に面白い論考です。
さて、その中でも今回私が取り上げたいのは、
円谷幸吉が自殺した際に遺した遺書について、
肉筆と明朝体を論じた項目です。
28歳という若さで、自殺したマラソンランナー円谷。
円谷については詳しく書きませんが、
その遺書が新聞に掲載されたのを野坂昭如が読んだ際、
「何というすさまじい呪いであるかと、受けとった」
(『円谷の実、三島の虚』より。)
と野坂氏は書いているそうな。
さてこの遺書、何が書かれているのかというと、
ひたすら、ずらりと親族、そしてお世話になった方へお礼であり、
美味しかったものに対する感謝なのです。
「〜様ありがとうございました」「〜様済みません」
「〜美味しうございました」
ひたすらこの繰り返し。
石川氏は、肉筆の際はそれほど感じられないものが、
明朝体として印字されると、
途端にその言葉が背負っている第三の「意味」が露出する事実を、
野坂の言葉から説明されています。
しかしながら、この繰り返し、羅列は、
肉筆でも恐るべきものです。
興味深いのは、本来の「美味しうございました」や
「ありがとうございました」は良い意味なのに、
ただただ反復されることで、全く逆の意味を帯びていくということです。
私は石川氏と違い、
明朝体が本人も意識していない?
(この点も議論の余地ありですが)怨み、
呪いを暴いたのではないような気がする。
つまり書体の問題というよりも、
これはレトリックの問題のような気がしてならない。
もちろん書体の問題も関わっていますが。
なんにせよ反復という行為は重ねられれば重ねられるほど、
病的な匂いを発散させ出す。
遺書というものについて、ずっと考えていたので、
この点ひっかかりました。
凄く貴重な文字に対する論集、
素人からその作品見ると「前衛」書家の石川九楊氏。
ぜひ。
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海馬浬弧
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自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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