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あらゆる事柄に関するレビューログ。 #kaibaricot
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これこそは、すべての女性に読んで頂きたい図書。
とりわけ「結婚」というものや、「家族」というものについて、
ここで提示されている考え方はとても絶望的なものでありますが、
あまりに現実的なのです。
または、「幸福」や「人生」というものがいかなるものなのか、
モーリヤックの提示した一人の現代女性は、
1927年から90年以上経った今でさえ、アクチュアリティをもって迫ってくる。

だから私は、ご結婚されている女性にこそ、
この話を読んで頂きたいと思っています。
とても、絶望的な物語りですが、
そのような物語りの存在意義とは、ただひとえに、
悲しい時に中島みゆきの「悪女」を口ずさむような、
悲しみに対する悲しみの薬。
絶望は同種の絶望をもってして、乗り越えないといけないからです。

さて、あるところで、主人公でありタイトルに冠されているテレーズのことを、
「心底怖い女の話」と書かれている著名な方がおられましたが、
否、それどころか、これはひどく現代的な、他人事では全くない、
ある意味では当たり前のお話なのです。

「心底怖い女」、それどころか。

テレーズをこう形容してしまう感性、それこそテレーズが最も恐れ、
最も理解しようという姿勢からほど遠い、「男性」的な典型姿勢ではないか。
テレーズの夫ベルナールのもつ姿勢と一致しはしないか。
この表現こそは、心ない、一つの形容詞に当てはめ、
その存在の多様性・複雑性を去勢させる、悲しい不理解ではないか。

「怖い」というのは表現は、常に理解できないものに対する
典型的な形容詞であり、テレーズとベルナールのような男女関係に限らず、
様々な人間関係、あるいは自分と異なるものに対する形容なのです。


さて、『テレーズ・デスケイルゥ』のあらすじとは、
新潮社の文庫本版レジュメから引用すれば、


 テレーズは夫を殺して自由を得ようとするが果たせず、
 しかも夫には別離の願いを退けられる・・・。
 情念の世界に生き、孤独と虚無の中で枯れはててゆく女
 テレーズを、独特の精緻な文体で描き、
 無神の世界に生きる人の心を襲う底知れぬ不安を
 宗教的視野で描く名作。


つまり、テレーズは、夫を殺そうとする女なのです。
しかしそれは、あくまで外面的な情報に過ぎない。
彼女がそのような方向へ転がっていった内的な必然性とは、
一体なんであるのか、そのことをじっくり考えて見る必要性が、
今の時代を生きる我々にも少なからずあり、
これは全く他人事ではない。

モーパッサン『女の一生』
フローベール『ボヴァリー夫人』
と同じ系譜に属する物語で、言ってみればボヴァリー夫人の夫に対する評価、
すなわちすべての夫的なるもの(私は男性とは言わない)
に対する絶望と、
似ている話に違いない。

ボヴァリー夫人が不倫に走り自殺したのと同じ道順で、
テレーズは夫の殺害へ向かう。

このことが示している一つの絶望的な理解は、
多くの場合、——もちろん全部ではない——、
結婚というものが人生からの「逃避」であるという事実。
むろん「逃避」といっても、様々な種類がある。


欺瞞であろうと子供は授かる。
しばし子供へ、子育てへ没入、専心する。
自己欺瞞を忘れる。子はかわいい。
だが、子は育つ。大人になる。
その時、再び、一度逃げたものに追いつかれていることを悟る、
という典型的な主婦の手順。
私もその実例。

そしてその欺瞞の末路。
ボヴァリー夫人は自殺したけれども、
テレーズはそういう意味でも現代的な女性です。

ここで結論や夫殺し未遂の動機は語りませんが、
彼女の姿には、『東電OL殺人事件』の彼女のことさえ重なる。


最後のシーンで見る彼女の後ろ姿は、
果たして今村昌平の『豚と軍艦』のようにしぶとい吉村実子なのか。

映画版では『24時間の情事』のエマニュエル・リヴァ。
残念ながら映画のテレーズは見ていないけれど、
リヴァはぴったりだと思います。

この知的でニヒルな、日本の小説に描かれない乾いた女性は、
デュラス『モデラート・カンタービレ』にも通ずるものがある。


すべての女性に読んでもらいたい一冊です。

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海馬浬弧
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自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
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私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
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