あらゆる事柄に関するレビューログ。
#kaibaricot
1950年発表。
もう7〜8年前に読んだものを再読。
物凄く面白かったです。
そのエピグラムから分かるように、
ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』の影響は非常に濃い。
そして、ラファイエット夫人の古典的名作『クレーヴの奥方』
を思い起こさせる、日本初の本格心理小説です。
これほど強固な文体を紡ぎ出す作家は、
現代の日本には一人もいません。
なぜなら、この小説は「私小説」の正反対にあるからです。
ひたすら冷徹に、登場人物の心理を裁断する。
徹底して論理的に解剖する。
すべてが説明文といっても過言ではない。
曖昧な描写は一切ない。
現代の流行は、これは文学の領域のみならず、
「私」的なものであると、私は考えています。
「私」的なものは、
読むものであれ、見るものであれ、
自己をより簡単に投影できます。
すると、登場人物に自分を投影できることの良さとは何か?
それはレクリエーションです。気晴らしです。
すべての嫌な日常から脱文脈化されることです。
その最も成功した例が太宰治であり、
太宰を読めば、一種の毒があるので、
「あっ、これ自分のことか」と、共感を越え、
自己と作中人物が同一に感じる瞬間さえあり、
なにもかも忘れてしまう。
それは自己陶酔です。
それを最も嫌ったのは三島由紀夫です。
三島を読めばすぐに、
登場人物の中にのめり込めない自分を感じるでしょう。
その代わり、
自分とは全く異なる、
別の何かを見いだすことが出来ます。
それは他者の美しさです。
今の世の中には、
とてもナイーブで、繊細で、センチメンタルな作品が、
これまでにないくらい溢れかえっている。
(文章、音楽、写真、絵画etc)
なるほど、そういったナイーブ・ロマン派は、
とっつきやすいかもしれないし、受け入れられやすい。
しかし、私は断じて、
他者の美しさを求める派です。
もう、ナイーブでセンチメンタルなものは見飽きたし、
読み飽きた。
その点、『武蔵野夫人』は、
全くセンチメンタルさのかけらもありません。
徹底的に淡々と、人の心理を論理的に説明する、
説明文しかない。
主人公、勉が興味を持つ、武蔵野の地形描写も、
つまりは勉の心理描写のメタファーに他ならない。
計算されつくされた筋書きと文章と人間関係。
ハルキスト的なものは一切ない。
なんか曖昧な表現で言外の雰囲気を感じさせて、
「いいな」みたいな、
あの甘っちょろい感じは一切ありません。
怠けた形容詞は一切ありません。
日本人が書いた最高の心理小説。
鉄の旋律を奏でています。
舞台は、今で言う野川公園や小金井や、その辺。
さすが大岡昇平。
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海馬浬弧
性別:
女性
自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
リンクは才能豊かな知人の方々なので、ぜひ。
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