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あらゆる事柄に関するレビューログ。 #kaibaricot
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文藝春秋3月号で読みました。
こちらについても、
率直な個人的感想を書いてみようと思います。

______________________________


全体としてはそこそこ面白い。といった感じです。

まず問題にしたいのが、
「私小説」ということについてです。

作家である西村さんが作品に対して投げかける視線は、
一種独特な、非常に醒めきった眼差しなのです。
この小説の良さは、明らかにこの作家と作品の距離感にある。

いわゆる「私小説」と呼ばれる作品の多くは、
一般的に感情過多な傾向が強い。
時には自分の惨めな境遇を託つばかりの、
やけにねっとりした、感傷的な小説が多い。

しかし『苦役列車』はそうではない。
作家が作品にあまり近寄らず、
あくまで三人称を保ち、淡々と物事を綴り、
そこから物語を醸し出している点がとても優れている。

「私小説」と自ら呼びつつ、
あまり「私小説」らしくない点がいいと考えます。
私はこの冷めた態度が結構好きです。
三人称を用いる私小説というのは
少なくありませんが、
そんな中でも確かに成功している方と考えます。


しかし、「私小説」家の弱点とは、
まさに自分の経験に頼りすぎる点でもあるのです。

西村さんは、中卒で逮捕歴があることこそ我が財産、
と公言しておられる通り、
この二つの経歴、それにお父さんのことも含め、
誰がどう見ても黒歴史と呼べる経歴は、
確かに有力な武器でもあります。

なぜなら、彼こそは「中卒」を語る資格があり、
「逮捕歴」を語る資格があり、
「性犯罪者の子」を語る資格がある、
と考えられるからです。

そして、これらの「資格」を持っている、
実はたくさんいるかもしれない人たちと、
皆さんは出会う機会がそれほどないでしょう。
なぜかというに、
彼らは概して「言葉」を持たないし、
西村さんのように「言葉」に変えて、
それを武器として使わないから、
あるいは使えないからです。

しかし、もし、経験という武器に頼りすぎると、
私小説家はどうなるか?
私生活を切り売りして見せないといけないので、
売るべき私生活がなくなってしまうということが
まず始めに起こる。
その上、読者は提示された私生活にすら、慣れてしまう。
さらに、同じ経験のヴァリアント作品が多くなる。

その結果、私小説家の小説の多くは、
はじめはインパクトがあったのに、
段々と単調な印象になっていく。
なぜなら、読者は、
私小説家として打って出られた方の小説を読むとき、
小説だけでなく生活も作品の一部として、
読んでいるからに他ならない。

つまり、小説だけで勝負していないのです。
私小説家は、
必然的に、小説作品+自分の私生活、で勝負せざるを得ず、
それが前提として出来上がってしまう。

だからこそ、読者は飽きるのがはやい。

もしもこの単調を打ち破りたいと思えば、
今度はあえて私生活を小説化するために、
さらなる破滅を目指さないといけなくなる。
その好例が太宰治の例です。

生活の小説化、小説の生活化。
私小説家の弱点はここにある。


さて、あえて欠点を言わせてもらうなら、
『苦役列車』はとても単調な小説でもあります。
緩急がついていない。
そういう意味で、すでに西村私小説の弱点が、
私は現れていると感じる。

確かに、この経験は面白いし、文体も個性的だと思う。
日下部との会話は時にユーモラスだし、
風俗の件なんかは笑えるところもある。
加えて、奇妙にも朝吹さんと一致しているように、
西村さんも食事の、食べ物の描写が実に上手い。

しかし、決定的に勢いとスピード感がない。
西村さんの経歴からして、私は勝手に、

エネルギーに満ちあふれた、
野心的で、粗雑な要素もあるけれども、
優れた作品なんだろうと思っておりました。

しかし、一読、
文体は、良い意味では完成された、
悪く言えば小さくまとまった文体。
作家の性格は善良でむしろ小市民的なのが如実。
インテリに対する憧れが、
そこはかとなく内容、形式の両方から表れている。

なんていうか、西村さんはちょっと冷めすぎている。
エネルギーがない。
つまり、なんか閉じた作品として感じてしまう。
完成度は確かに高いのだけれど、
その高さが逆に、学術的な要素を垣間見せ、
逆説的ながらインテリの作品なのです。


私は勝手に、セリーヌの呪詛に充ち満ちた
『夜の果ての旅』なんかを想定していた。
だから、その全く違った冷めた印象に、
少し驚きました。
全然粗削りではなく、完成している。


優れた小説に間違いないけれど、
私自身の欲望・希望・願いを言えば、

怒りとエネルギーに満ち溢れた小説こそ、
今読みたい。






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海馬浬弧
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自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
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私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
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