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あらゆる事柄に関するレビューログ。 #kaibaricot
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1953年にアイラ・レヴィンが23歳の時に上梓した作品。

23歳の時点でこのような作品が書けるとは……
はっきり言って天才です。
天才の仕事です。


読もう読もうと思ってなかなか読めずにいました。
途中まで読んでいたのですが、
忙しさにかまけて、しばらく遠ざかっていた。
でもようやく、土日を含む4連休がとれて、
昨日から一泊二日で甲府へ小旅行へ出かけました。

私の目標はあと1〜2年のうちに日本全国都道府県を制覇する、
ということなのですが、これで残すところあと8県ばかり。

さて。
行きの中央線でこの本をずっと読んでいたのですが、
驚嘆しました。

田村隆一とか、そういう一流の詩人が本作を認めている理由も
実によく理解できます。
物凄く面白い。
何が面白いかって、エンターテイメント性も芸術性も、
すべて含んでいるのです。
さらに、形式(構成)の妙もある。

一章において、作者は意図的に主人公を「彼(He)」としてしか表さない。
それゆえ、二章では一体誰が犯人なのか、読者は考えさせられる。
三章では犯人はもうわかっているが、今度はどうやって犯人を追い詰めるのか、
そこに主眼が置かれている。

なにより私にとって好ましいのは、推理小説にありがちな、
読んでも理解できない、現実の事件ではありえない難解なトリックとか、
内容稀薄な動機ではない、という点です。

私は実際の犯罪、犯罪小説でも、
最も「動機」を重要視します。
現実には絶対にコナン君的なトリックはありえない。
犯罪はその9割がもっと衝動的で感情的なものなのです。
一見動機のない事件、あるいは動機らしい動機に見えない事件も、
犯人にとっては最もな動機(原因)が必ずある。


『死の接吻』の犯罪は徹頭徹尾論理的な動機で、
且つ常識的な手口なのです。
作者が追いかける、殺人者の心理、殺される側の心理は精緻そのもの。
細かい心理描写と、
なぜ主人公がこのような「コンプレックス」となったかという背景描写、
彼の経験描写が緻密なのです。
もちろんここで私が言う「コンプレックス」とは語の意味本来の
「複合体」という意味であり、「劣等感」という誤訳ではありません。

どのようにしてこのような殺人者が出来上がったのか、
とてもわかりやすい。
そして現実的なのです。
50年以上も前の小説とはとても考えられない。

確かに、この小説には『陽の当たる場所』的な、
青年の野心と、その実現のためには犠牲も厭わない、
というマキャベリストチックなものが描かれていますが、
それだけではない。
なぜならこの青年はとても現実的なのです。
この青年は現実的という意味で、至極現代的です。
しかし一方で、大きな野心を持っているという点で
現代的でないとも思います。


「野心」
この言葉はもうあんまり聞かない言葉。
「一旗あげる」とかもそうかもしれない。
誰も野心を持っていない。

夢と野心は違う。
野心はより、ギラギラした、若者のエネルギーなのです。


……それにしても。
驚くべきストーリー構成と第一級の心理描写。
『ボヴァリー夫人』もビックリでしょう。
23歳でこれを書いたというのだから信じられない。
不遜な小説。


この夏にいかがでしょう。
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プロフィール
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海馬浬弧
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女性
自己紹介:
言語学者、哲学者、文学者、サイバネティック学者である、
海馬浬弧による本、映画、アニメ、音楽、その他、
あらゆることに関するレビューログ。
私生活については一切書きません。7カ国語堪能。
独断と偏見に充ち満ちているため、不快に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これも現代の歪みの一つだと思って、
どうかお許し下さいませ。
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